NCSのFDE「iFDE」とは|SIerが100人を300人に増やす組織と求人票を読む
執筆・監修:FDE Talent編集部/各社の公式求人票・公式発表などの一次情報を出典として明記しています
この記事の要点
- 01Singtel傘下のITサービス会社NCSは2026年10月29日、AI Mission Centreを開設し、自社のFDEであるiFDEを2年で100人から300人超に増やすと発表した。
- 02NCSはiFDEを、業界知識を持ち、特定ベンダーに縛られず、顧客のチームの中に入って本番導入を担うAIの専門家と説明し、社内のリスキルと外部採用の両方で増やすとしているが、内訳は公表していない。
- 032026年11月3日時点のNCSの求人474件のうち職種名にForward Deployedを含むのは1件で、求人票からは、FDE組織がAI Mission Engineerなど別名の職種と組み合わせて作られていると読める。
- 04同じSingtelグループでも、RE:AIのForward Deployed Engineerの求人は、作るものは商談を勝ち取るためのもので3年間本番で動かすためではないと書いており、NCSのiFDEとは担う範囲が違う。
- 05NCSのCEOは2026年6月の取材で、AIで同じ仕事に要る人数が減るため小さなチームに分かれて仕事を増やす必要があると述べており、人月で稼ぐSIerがFDEに向かう背景を示していると読める。
シンガポールのNCSは、通信大手Singtelの子会社で、アジア太平洋に約15,000人を抱えるITサービス会社です[8][2]。日本でいえば、官公庁の案件を多く持つ大手SIerに近い立ち位置にあります。そのNCSが2026年10月29日、AIを本番に乗せるための拠点「NCS AI Mission Centre」を開き、FDE(Forward Deployed Engineer/フォワードデプロイドエンジニア)を2年で100人から300人超に増やすと発表しました[1]。
この記事では、NCSの公式発表3本、CEOへの単独インタビュー、NCSの採用ページから取得したAI案件の職種の求人票4件と、同じSingtelグループが出しているFDE求人2件を原文で読み、SIerがFDE組織をどう組み立てようとしているのかを整理します。日本でFDE組織を作ろうとしている企業と、SIerからFDEへの転身を考えている人の両方に向けた内容です。FDEという職種の全体像はFDEとは?を、FDE組織の置き場所の選択肢はFDE組織の作り方をあわせて読んでください。
NCSのiFDEとは何か?
iFDE(Intelligentisation Forward-Deployed Engineer)とは、NCSが自社のFDEに付けた呼び名です。NCSは、iFDEを「業界の知識を持ち、特定のベンダーに縛られず、顧客のチームの中に直接入って、主要な業界で実際の導入を届けるAIの専門家」と説明しています[1]。頭の「i」は、NCSが2025年から掲げている「Intelligentisation(業務や行政の中核にAIを組み込むこと)」から来ています[11]。
発表によれば、AI Mission Centreは業界の専門家、iFDE、AIプラットフォームのチームを1か所に集め、NCSの製品群「Sunshine.AI」を使って、顧客が優先すべき課題を定め、業務の流れを設計し直し、AIを本番の業務の中で安全に試して導入するのを手伝います。うまくいった導入は再利用できる製品や機能に作り替え、別の組織や別の国に広げるとしています[1]。開設式にはデジタル開発・情報大臣のJosephine Teo氏が主賓として出席しました[1]。
開設に合わせて結んだ3件のMOUは、それぞれ業界が違います。チャンギ空港グループとは、共同開発した滑走路の異物監視システム「iFerret」をAIで強化し、空港の実環境で要件を作って試してから世界に展開します。精神保健研究所(IMH)とは、入院患者の本人確認を助ける顔認証のAI「Bio-ID」を病棟で検証します。Life3 Biotechとは、微生物によるバイオ製造の最適化をAIで共同開発します[1]。
「現在100人いるiFDEを300人超に増やすことで、私たちは最大の資産である人に投資しています。技術の飛躍を、日々の進歩に変えられる人たちです。」
“By growing our current team of 100 iFDEs to more than 300, we are investing in our greatest asset - our people - who can turn technological breakthroughs into everyday progress.”
なぜSIerのNCSがFDEを増やすのか?
編集部の見方では、背景にあるのは、AIで1件の案件に要る人数が減り、人数で稼ぐ従来のやり方が細っていくことです。NCSのSam Liew CEOは2026年6月、The Business Timesの単独インタビュー(就任から約2か月の時点)で、記事は、AIがNCSの追う契約の作業範囲を縮め、案件に要る人数を減らす可能性があると書いています。Liew氏は「同じ量の仕事に要る人が減るので、小さなチームに分かれる必要がある」「(小さなチームで)広く散って、もっと多くの仕事を取る必要がある」と述べています[8]。
「同じ量の仕事をこなすのに必要な人数が減るので、私たちは自分たちを小さなチームに分けなければなりません。」
“We do need to break ourselves up into smaller teams, because we need fewer people to perform the same amount of work.”
同じ記事によれば、Liew氏が4月1日にCEOに就いた時点で、NCSの2026年度の売上高の69%超を政府の契約が占めていました。Liew氏はシンガポール政府向けの事業を「さらに強める」とし、インフラやサイバーセキュリティの分野でシステムインテグレーターへの需要が強いことを挙げています。記事は、政府の中でAIの需要が伸びているとも書いています[8]。政府の案件に強いSIerが、AIで案件あたりの人数が減るなかで、顧客の中に入って成果を出す少人数のチームへ組み替えている、というのがこの記事から読める構図です。
2026.07
10の業界グループと2つの共通組織への再編を公表
業界別の10グループと、AIエージェントを使った開発を担うACE、安全な運用を担うDRの2組織に分け、全社のAIを率いるAI Centralを新設[9]
2026.07
AI Centralの4本柱の1つにFDEを置く
最高AI責任者のEdward Chen氏が、AIネイティブの少人数チーム(speedboats)、FDE、拡大と持続、研究機関との連携の4つを挙げた[10]
2026.08
「Forward Deployed Engineer - Multi Cloud Platform」を掲載
NCSの採用ページで、職種名にForward Deployedを含む唯一の求人(採用管理システム上の公開日は8月19日)[2]
Liew氏の就任後の再編(6月の取材で報じられ、7月9日の発表で公表)では、それまで通信・政府・企業の3つだった事業グループを、公共サービス、医療、中央政府などの10の業界別の柱に分け、エンジニアは業界をまたいで動ける2つの共通の開発組織にまとめました[8][9]。CRN Asiaの記事によれば、最高AI責任者のEdward Chen氏が挙げたAI Centralの4つの領域の2つ目がFDEで、NCSが顧客と一緒に試作から本番への拡大と統合までを進める領域とされています[10]。
「私たちはAIを軸に自分たちを組み直しています。私が率いるAI Centralの設立は、4つの考え方を中心にしています。」
“We are reorganizing ourselves in an AI-led way. The creation of AI Central, which I lead, is centered around four key ideas.”
iFDEの組織はどの職種で組まれているのか?
NCSのFDE組織は、FDEという職種だけでできているわけではありません。発表には、iFDEと並んで、「speedboats(スピードボート)」と呼ぶAIネイティブの少人数チームが顧客の案件を支えると書かれています[1]。採用ページの求人票を読むと、案件を見つける人、全体を率いる人、作る人が、別々の職種として募集されています[2][3][4][5]。
| 職種・チーム | 求人票・発表での位置づけ | コードを書くか | 経験の目安 |
|---|---|---|---|
| AI Mission Leader | 業界の難しい課題をAIの成果に変える上級の責任者。経営陣(CEO・CTO・最高データ/AI責任者など)の直属で、医療や企業の生成AI変革などの案件群を率いる[5] | 求人票にコーディングの記載なし(応用AIの技術的な理解は必須) | 複雑な技術案件を率いた役員級の経験[5] |
| AI Mission Engineer | 顧客の業務から機会を見つけ、課題を定義し、投資の根拠を作り、PoCを率い、定着と成果まで受け持つ「機会の起点」。案件を通して顧客の単一窓口になる[4] | 求人票は「コードを書かずに」構成を理解できることを求める | コンサル・業務変革・ソリューション設計などの顧客対応の経験[4] |
| Forward Deployed Engineer | GCP・AWS・Azure上でAIアプリケーションを設計・構築・保守する。既存のシステムからエージェントを使う業務の流れへの移行を設計する[2] | 書く(Python・Java、Terraformなど) | IT経験6〜7年(SI企業での経験が望ましい)、AIの実務4年以上[2] |
| AI Native Builders(AI Central。speedboatsにあたると見られる) | 最高AI責任者と直接組む、スタートアップ型のチーム。顧客の課題から試作・MVP・導入可能なものまでを短期間で作る[3] | 書く(AIで設計・開発・調査を加速する) | AI・機械学習・生成AIを実環境で届けた経験。「従来の物差しでは経歴が浅くても、自社が重視する指標で進んでいればよい」と明記[3] |
AI Mission Engineerの求人票は、協働する相手として「AI Natives」「AI Factory」「AI Integration」「AI Institute」の各チームを挙げています[4]。AI Native Buildersの求人票は、自分の担当業界のAI導入の方法論と、案件から生まれる再利用可能な部品の蓄積を「受け持つもの」として挙げ、シンガポールの主要顧客向けに作ったものを、ほかの国でも使える形に整理することを求めています[3]。案件ごとに作って終わりにせず、製品に戻す仕組みを、職種の役割として書き込んでいるわけです。
NCSのFDE求人票には何が書かれているのか?
NCSの採用ページで、職種名にForward Deployedを含むのは「Forward Deployed Engineer - Multi Cloud Platform」の1件です(2026年11月3日時点)[2]。求めているのは、クラウド上でAIアプリケーションを作り、運用まで持つエンジニアで、SI企業での経験、政府の案件の経験、上級のクラウド認定資格が要件に並びます[2]。AIの研究所やAIスタートアップのFDE求人よりも、SIerで育ったエンジニアの経歴に寄せた書き方です。
Open Position
NCS
#EG Forward Deployed Engineer - Multi Cloud Platform
- 勤務地
- Singapore
- 雇用形態
- Full-time
- 求人票の取得日
業務内容
- GCP・AWS・Azure上で、AIアプリケーションを実際に手を動かして設計・素早く構築・保守する
- Gemini Enterprise、AWS Bedrock、Cloud Run、GKEなどを使ったクラウドのAIソリューションを設計・導入・支援する
- 従来のシステムから、エージェントを使う業務の流れへの移行を設計・構築する
- 技術者・非技術者の関係者と協働し、案件の完遂、継続的な支援、改善の機会の発見まで受け持つ
応募要件
- 関連するIT経験6〜7年(SI企業での経験が望ましい)
- AIの実務経験4年以上、うち1年以上は複数のクラウド環境での経験(必須)
- 上級(Professional)レベルのクラウド認定資格を1つ以上(必須)
- 政府の案件の経験、Terraformによるインフラのコード化(上級)、ランディングゾーンの構築・クラウド移行・LLMOps・迅速な試作の経験
- Python・Java(Spring Bootなど)、RAGとエージェントを使った設計の経験
- 部長級までの関係者と向き合える問題解決力と、口頭・文書での伝える力
この求人票の読みどころ業務の記載は「設計・構築・保守」「継続的な支援」で、作って渡すだけでなく運用まで持つ前提です。要件は年数・資格・政府案件の経験とSIerの評価軸で書かれており、顧客の課題を自分で定義する役割は、別の職種(AI Mission Engineer)に分けられていると読めます。報酬の記載はありません。
公開されている求人票の内容を、編集部が解説のために日本語で要約したものです。当サイトはこの求人の募集主体・応募窓口ではありません。募集は終了・変更されることがあります。最新の内容は求人票の原文をご確認ください。
Open Position
NCS
#EG Senior / AI Native Builders
- 勤務地
- Singapore
- 雇用形態
- Full-time
- 求人票の取得日
業務内容
- 最高AI責任者や幹部と直接組み、顧客の機会をAIの製品・MVP・新事業に変える
- 顧客の課題設定から、試作・MVP・導入できる解決策までの道のりを率いる
- あいまいな事業課題を、製品の仮説・技術の方針・実行計画に落とす
- 顧客の技術・事業の責任者に、AIへの投資の優先順位や作るか買うかの判断を助言する
- 担当業界のAI導入の方法論と、再利用できる部品の蓄積を受け持ち、他国で使える形に整える
応募要件
- Python・JavaScriptなどで本番品質のアプリケーションを作り、統合した経験
- AI・機械学習・生成AIの解決策を実環境で届けた経験
- LLMアプリケーションの設計パターン、評価、モデルの限界についての理解
- 実験と、セキュリティ・信頼性・保守性を両立させる規律
- 事業の要求を技術の実行に訳し、役員級に助言できる伝える力
歓迎要件
- コンサル・新規事業・スタートアップ・イノベーションチームでの経験
- 航空・陸上交通・治安・通信・政府など規制の厳しい環境でのAI導入の経験
この求人票の読みどころ求人票は、候補者が「従来の物差しでは経歴の浅い人」でもよく、重視する指標で進んでいればよいと書いています。年数と資格を並べたFDEの求人票とは、見ている物差しが逆です。同じ会社の中で、運用まで持つFDEと、短期間で試作を作るBuildersを、別の評価軸で採ろうとしていると読めます。
公開されている求人票の内容を、編集部が解説のために日本語で要約したものです。当サイトはこの求人の募集主体・応募窓口ではありません。募集は終了・変更されることがあります。最新の内容は求人票の原文をご確認ください。
顧客の課題を定義する側のAI Mission Engineerの求人票は、求める資質を「本当の課題を見つける力」「信頼を築き、考えで人を動かす変革の担い手」「複雑なAIの概念を事業の言葉に分解する技術の通訳」の3つにまとめています。技術については、RAGやベクトルデータベース、LLMの構成をコードを書かずに理解できることを求め、防衛、医療、交通、通信、金融など10の業界のどれかに深い知識があることを要件の先頭に置いています[4]。
- NCSの採用ページに載っていた求人
- 474件
- 編集部が集計。NCSの採用ページ(SmartRecruiters の公開API)に掲載の全件。2026年11月3日取得
- 職種名にAI・GenAI・LLM・Agenticを含む求人
- 72件
- 編集部が集計。同じ474件のうち、職種名にこれらの語を含むもの。2026年11月3日取得
300人超という目標に対して、FDEの名前で出ている求人は1件だけです。発表が「社内のリスキルと外部採用」で増やすとしていることと合わせると[1]、iFDEの多くは、社内のエンジニアやコンサルタントを配置し直して数える呼び名で、外からの採用はAI EngineerやAI Native Builderなど別の職種名でも行われていると考えられます。iFDEとして数える条件は発表に書かれていません。
同じSingtelグループのFDE求人は何が違うのか?
Singtelグループの採用ページには、NCSとは別に「Forward Deployed Engineer」の求人があり、こちらは関わるのがパイロットまでで、作るものは商談のためと明記しています。求人票によれば、これはSingtel Digital InfraCoの主権AI基盤「RE:AI」(NVIDIAのGPUを使うGPU・モデル・トークンの提供サービス)の顧客対応のAIエンジニアリング部門の職種で、AIの話し合いを契約済みのパイロットに変えるために、顧客成功(Customer Success)の中に新しく作る部門だと説明されています[6]。
「あなたは作ります。素早く作ります。ただし、作るものは商談を勝ち取り形づくるためのもので、3年間本番で動かすためのものではありません。」
“You will build, and you will build quickly — but what you build exists to win and shape a deal, not to run in production for three years.”
| 比べる点 | NCSのFDE求人(FDE - Multi Cloud Platform) | Singtel RE:AIのForward Deployed Engineer |
|---|---|---|
| 所属 | NCS(Singtelの子会社のITサービス会社)[1] | Singtel Digital InfraCoのRE:AI、顧客成功の部門の中[6] |
| 顧客 | 大企業と公共部門(求人票の定型文)。政府案件の経験を要件に置く[2] | 政府・金融・医療・企業(ASEAN)。RE:AIの見込み客と既存客[6] |
| 関わる範囲 | 設計・構築・保守、継続的な支援まで[2] | 最初の打ち合わせからパイロットまで。導入が決まれば本番の構築と運用は別チームに渡す[6] |
| 仕事の配分 | 記載なし | おおよそ半分が技術の判断、半分が伝えることと商業的な判断[6] |
| 商業面の仕事 | 記載なし | TCOの試算、トークンの経済性、入札・RFPの技術資料[6] |
| 再利用 | 担当業界の再利用できる部品の蓄積はBuildersの求人票に記載[3] | 3社で繰り返す型を再利用できるデモ・テンプレートにすることを求める[6] |
| 最重要の要件 | IT経験6〜7年、AI実務4年以上、上級のクラウド認定資格[2] | 顧客と直接技術の話ができること(求人票が「唯一最も重要な要件」と明記)[6] |
Singtelグループは同じ時期に、学生向けの「Forward Deployed Engineer Intern」も2件掲載しています(内容は同じ。掲載日は10月21日)。業務は市場の調査、生成AIやエージェントのPoC作り、試作の検証と文書化で、本番・セキュリティ・設計の判断は指導の下で行うと書かれています[7]。グループの中だけでも、「FDE」という名前で、本番の運用まで持つ人、商談のための試作を作る人、学生の試作要員の3通りが募集されていることになります。
300人はどこから来るのか?
NCSは、iFDEの増員を社内のリスキルと外部採用の組み合わせで進めるとしていますが、何人を社内から、何人を外から採るかは公表していません[1]。発表と経営者の発言から読み取れるのは、全社員へのAI研修、2,000人超のAI実務者の継続的な育成、職種の作り直し、新卒向けの3つの育成プログラムという、裾野から積み上げる設計です[1][8]。
| 取り組み | 内容 | 出典の時点 |
|---|---|---|
| 全社員のAI研修 | プロンプトエンジニアリング、責任あるAI、AIエージェントとの協働を全社員に研修[1] | 2026年10月 |
| AI実務者の育成 | 2,000人超のAI実務者に、本番で動くエージェントの構築・導入の技能を継続的に研修[1] | 2026年10月 |
| エンジニアの転換 | 1,000人超のソフトウェアエンジニアを、AIエンジニア・プロンプトエンジニアにリスキル済み[8] | 2026年6月 |
| 職種の作り直し | 業務分析・開発・テストの能力を、より多能なAI活用チームの中にまとめる方向でソフトウェアエンジニアの職種を設計し直す[1] | 2026年10月 |
| 新卒・若手 | 大学・ポリテクニック・ITE卒向けの就業と学習を組み合わせた3プログラム(Nucleus・Fusion・Ignite)。勤務義務(ボンド)のない枠を含む[1]。過去12か月で新卒とインターン約800人を採用[8] | 2026年6月・10月 |
| 専門人材の採用 | 政府機関Digital Industry Singapore(DISG)と組み、3年間で130人超のAI実務者を採用[9] | 2026年7月 |
このうち、日本のSIerにとって重いのは「職種の作り直し」です。業務分析(要件定義)・開発・テストの能力を、より多能なAI活用チームの中にまとめるという方針で[1]、CEOが述べた「小さなチームに分かれる」という話と同じ方向を向いています[8]。Liew氏は同じインタビューで「社員のリスキルが十分に速く進むかを心配している」とも語っており[8]、職種を作り直す側にとっても、計画どおりに進むかは決まっていません。
他のITサービス会社・コンサルのFDE組織と比べると?
2026年は、ITサービス会社やコンサル、広告会社が、FDEの人数を掲げた発表を続けた年でした[12][13][14][15]。ただし、数えているものは会社ごとに違います。在籍している人数、作る組織の規模、育成の対象者数が混ざっているので、横に並べるときは「何の人数か」を必ず確かめる必要があります。
| 会社 | 発表日 | 公表された人数 | 何の人数か |
|---|---|---|---|
| NCS | 2026年10月29日 | 100人→300人超(2年) | 在籍するiFDEの人数と、その目標[1] |
| Microsoft(Frontier Company) | 2026年7月2日 | 6,000人 | 顧客先に置く業界・技術の専門家。25億ドルの投資[12] |
| Accenture(Gemini Enterprise事業グループ) | 2026年9月8日 | 1,000人 | 作るFDEの組織の規模。土台は約5万人のGoogle Cloudのスキル保有者[13] |
| 博報堂DYグループ | 2026年10月23日 | 200名超 | HCAI Professionalsに在籍する専門人材。この中からFDE専門人材のチームを組む[14] |
| 国内電通グループ | 2026年10月14日 | 約3,000人 | FDE・FDMのスキル開発の対象者[15] |
人数の規模ではMicrosoftやAccentureに及びませんが、NCSの300人は、従業員約15,000人の会社の中の、顧客の中に入るAIの専門家に限った数です[1][8]。従業員数で割ると約2%にあたり、全社員を研修する一方で、顧客に入る人は絞って置く設計だと読めます。FDE組織の置き場所(製品部門・営業部門・別会社・パートナー)の比較は、FDE組織の作り方で扱っています。同じくSIer・コンサル側のFDEとして、アクセンチュアのFDEとRDEと、富士通のFDEとミスミの事例もあります。
シンガポールのFDEの求人市場も見ておきます。編集部が集計した2026年11月3日の求人スナップショット(133の公開ジョブボードのうち応答した130。職種名にForward Deployed・FDE・FDSEを含む求人)では、勤務地にシンガポールを含むFDE求人は13件(うち3件はオーストラリアやインドとの併記)で、Cognition、Cursor、Databricks、Exa、Field AI、OpenAI、Rogo、Together AI、Wonderfulの9社でした。NCSとSingtelはこの観測対象に入っていないので、この数には含まれません。AIの会社のFDEと、NCSのような地元のITサービス会社のiFDEが、同じ人材を取り合う状況にあると考えられます。
日本のSIer・採用企業・求職者にとっての意味は?
NCSの例は、政府の案件を多く持つ大手SIerが、AIで案件あたりの人数が減るという変化に、FDEという形で応えようとしている実例です[8][1]。日本でも、博報堂DYや電通、富士通などが2026年にFDEを掲げましたが、職種の作り直しと再利用の仕組みまでを公表した例は多くありません。
このデータから分からないことは?
分からないのは、300人の内訳、iFDEとして数える条件、報酬、導入の成果の4つです。いずれもNCSの発表や求人票に書かれておらず、この記事の読み解きは公表された目標と求人票の記載に基づいています[1]。
まとめ
NCSの計画は、AIで案件あたりの人数が減るSIerが、顧客の中に入る少人数の専門家を増やし、作ったものを製品に戻す形へ組み替えようとする試みです[1][8]。要点は次のとおりです。
- NCS(Singtelの子会社、従業員約15,000人[8])は2026年10月29日、AI Mission Centreを開き、iFDEを2年で100人から300人超に増やすと発表した[1]
- 背景には、AIで案件あたりの人数が減るという、人月で稼ぐSIerの事情がある。CEOは「小さなチームに分かれ、もっと多くの仕事を取る」と述べている[8]
- FDE組織は、課題を定義するAI Mission Engineer、作るFDE、試作を担うAI Native Builders、役員級のAI Mission Leaderの組み合わせで[4][2][3][5]、FDEの名前の求人は474件中1件だった(編集部が集計)
- 同じSingtelグループでも、RE:AIのFDEは商談のための試作と明記しており、本番の運用まで持つNCSのFDEとは範囲が違う[6][2]
- 日本のSIerが借りられるのは、課題を定義する人を定着まで窓口に残し作る人に保守まで持たせること、再利用の役割を求人票に書くこと、要件定義・開発・テストを多能なチームにまとめることの3点(編集部の見方)
よくある質問
QNCSのiFDEとは何ですか?
iFDE(Intelligentisation Forward-Deployed Engineer)は、シンガポールのITサービス会社NCSが自社のFDEに付けた呼び名です。NCSは、業界の知識を持ち、特定のベンダーに縛られず、顧客のチームの中に直接入ってAIの本番導入を担う専門家と説明しています。2026年10月29日時点で約100人が在籍しています。
QNCSはFDEを何人に増やすのですか?
NCSは2026年10月29日、iFDEを今後2年で現在の約100人から300人超に増やすと発表しました。社内の人材のリスキルと外部からの採用を組み合わせるとしていますが、それぞれの人数の内訳は公表していません。
QNCSのFDE求人の応募要件は何ですか?
2026年11月3日時点のForward Deployed Engineer - Multi Cloud Platformの求人票では、関連するIT経験6〜7年(SI企業での経験が望ましい)、AIの実務経験4年以上、上級レベルのクラウド認定資格が必須とされ、政府の案件の経験やTerraformの上級の経験も求められています。勤務地はシンガポールで、報酬の記載はありません。
QSingtelのFDEとNCSのiFDEは同じ仕事ですか?
違います。Singtel Digital InfraCoのRE:AIのFDE求人は、最初の打ち合わせからパイロットまでを担い、作るものは商談を勝ち取るためのもので、本番の構築と運用は別のチームに渡すと書いています。NCSのFDE求人は、クラウド上のAIアプリケーションの設計・構築・保守と継続的な支援まで担う内容です。
Q日本のSIerはNCSの例から何を学べますか?
編集部の見方では、人数の目標より組織の設計が参考になります。課題を定義する人を定着まで窓口として残し、作る人に保守まで持たせること、案件で作ったものを再利用できる部品に戻す役割を明記すること、要件定義・開発・テストの能力を多能なチームにまとめ直すことの3点です。NCSのCEOは、AIで同じ仕事に要る人数が減ることを再編の理由に挙げています。
出典・参考資料
- 1
NCS ・ 公開 2026-10-29 ・ 閲覧 2026-11-03
iFDEの定義と100人→300人超の目標、AI Mission Centreの役割、speedboats、3件のMOU、人材施策(全社研修・2,000人超の育成・職種の作り直し・新卒プログラム)、CEOの発言を参照
- 2
求人票#EG Forward Deployed Engineer - Multi Cloud Platform
NCS ・ 公開 2026-08-19 ・ 閲覧 2026-11-03
業務内容、IT経験6〜7年・AI実務4年以上・クラウド資格・政府案件などの要件を参照。公開日は採用管理システムの値
- 3
求人票#EG Senior / AI Native Builders
NCS ・ 公開 2026-10-19 ・ 閲覧 2026-11-03
AI Centralの説明、少人数チームの役割、再利用できる部品の蓄積、経歴の年数より成果を見るという記載を参照
- 4
求人票#EG AI Mission Engineer (AI Transformation Consultant)
NCS ・ 公開 2026-10-23 ・ 閲覧 2026-11-03
機会の起点としての役割、3つの資質、コードを書かずに構成を理解するという技術要件、10業界の知識、協働するチームを参照
- 5
NCS ・ 公開 2026-08-17 ・ 閲覧 2026-11-03
上級の責任者としての役割、C級役員への報告ライン、医療・生成AI変革の案件群、要件を参照
- 6
Singtel Group ・ 公開 2026-10-08 ・ 閲覧 2026-11-03
RE:AIの説明、顧客成功の中の新しい部門、商談のための試作でパイロット後は別チームに渡すこと、仕事の半々の配分、TCO・入札、最重要の要件を参照
- 7
求人票Forward Deployed Engineer Intern
Singtel Group ・ 公開 2026-10-21 ・ 閲覧 2026-11-03
インターンの業務(市場調査・PoC・試作の検証と文書化)と、指導の下で判断する旨を参照。同じ内容の求人(1369198566)も掲載
- 8
記事New NCS chief bets deeper on government contracts, even as AI shrinks the workload
The Business Times(NCSのサイトに転載) ・ 公開 2026-07-03 ・ 閲覧 2026-11-03
The Business Timesの原文は2026年6月9日掲載(NCSのサイトへの転載は7月3日)。CEO就任日、政府契約が売上高の69%超、小さなチームに分かれる発言、3事業グループから10の柱への再編、1,000人超のリスキル、新卒・インターン約800人、リスキルへの懸念を参照
- 9
NCS ・ 公開 2026-07-09 ・ 閲覧 2026-11-03
10の業界別グループ、ACEとDRの2組織、AI Centralの新設、DISGと組んだ3年で130人超のAI実務者の採用を参照
- 10
Aaron Raj ・ CRN Asia ・ 公開 2026-07-09 ・ 閲覧 2026-11-03
最高AI責任者Edward Chen氏の発言(AI Centralの4つの考え方とFDEの位置づけ)を参照
- 11
NCS ・ 公開 2025-07-10 ・ 閲覧 2026-11-03
3年間でS$1億3,000万の投資、Intelligentisationの定義、Sunshine.AIの公開、当時の従業員約13,000人を参照
- 12
公式Microsoft Frontier Company: AI engineering that amplifies and protects your intelligence
Judson Althoff ・ Official Microsoft Blog ・ 公開 2026-07-02 ・ 閲覧 2026-11-03
25億ドルの投資と、6,000人の業界・技術の専門家を顧客先に置くこと、FDEより広い組織という説明を参照
- 13
Accenture ・ 公開 2026-09-08 ・ 閲覧 2026-11-03
1,000人のFDEの組織と、約5万人のGoogle Cloudのスキル保有者を参照
- 14
博報堂DYホールディングス ・ 公開 2026-10-23 ・ 閲覧 2026-11-03
200名を超える専門人材の在籍と、FDE専門人材によるチームの組成を参照
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公式国内電通グループ、3,000人規模のFDE・FDMスキル開発を開始
イグニション・ポイント(PR TIMES) ・ 公開 2026-10-14 ・ 閲覧 2026-11-03
約3,000人を対象にしたFDE・FDMのスキル開発プログラムを参照
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